空飛ぶ野球少年

[第1話]コードブルー

平成22年8月20日。

この日は友達家族たちと掛川のコテージへ1泊の旅行。家族4人で参加する予定だったが、小学校5年生になる息子のコウタは、「翌日野球の練習があるから」と言って旅行をキャンセル。嫁さんと娘の3人で参加することにした。

コテージは、原野谷川のほとりにあり、キャンプ場や温泉、レストランなども併設された施設で、週末ということもあり、多くの家族連れや学生などで非常に賑わっていた。わたしは仕事の関係で夜から合流。現地に着くと、すでに宴会が始まっており、この日のために用意した「三ヶ日牛」に舌鼓をうち、大好きなビールをたらふく飲んだ。久しぶりに揃った仲間。途中どしゃぶりがあったが気にも留めず、宴会は深夜3時すぎまで続いた。

コウタはというと、翌日の練習に備え、いつもよりも早めに就寝したようだ。
平成22年8月21日。

夜明けとともに、テンションがあがりまくった子供達が起こしに来た。大声で叫んだり、何かで叩いてきたり、体の上に飛び乗ってきたりとやりたい放題。眠気にくわえ、二日酔いでもあったため、真剣に頭にきたが、子供達からすればこれも旅の思い出。ここは大人になり、起きることにした。

朝食には“ナン”が用意されていた。近所の料理自慢の奥さんが焼いてくれたらしい。何も食べたくなかったが、珍しいので食べることにした。
「ん~ん、美味い!!」
大自然の中で食べる朝食はやはり美味い!二日酔いでも美味しい!!川のせせらぎや鳥のさえずりがなんとも言えない情緒を醸し出しだす。喧騒とした日常を忘れさせてくれる貴重な時間だ。

子供達はすでに水着に着替えていたが、まだ川の水が冷たいために、まずは荷物をまとめることにし、川遊びは9時半頃から始めた。浅瀬のため危険はなさそうだが、“ターザンロープ”があったため、飛び込む子供が、川で泳いでいる子供にぶつからないように細心の注意を払う。真夏だが、川の水は非常に冷たいため、子供達の唇が変色を始めた11時頃に切り上げ、帰路につくことにした。

コウタは6時に起床。ゆっくりと朝食をとった後、7時15分頃に近所の野球少年達と待ち合わせをして、一緒に練習場所である小学校へと自転車で向かったようだ。小学校までは自転車で15分位の距離。この日の練習は午前中のみ。弁当は持たず、バットを肩に掛け、グローブとタオル、でっかい水筒が入ったバッグを背負い、いつものように、自転車で“シャカシャカ”小学校へと向かった。

コウタの所属するチームは、強豪ではないものの練習は非常に厳しい。練習中は常にコーチの罵声が飛び交う。特に、足が遅く、運動神経がいい方ではないコウタはよく怒鳴られている。

泣きながら練習をする子もいるので、ある時コウタにこんな質問をしたことがある。
「コーチに怒られてばっかりで、野球するの嫌じゃない?」

するとコウタからは
「期待してくれてるから厳しいんだよ」
と返ってきた。

コウタは幼稚園の時からサッカーをやっていた。同級生と比べても“ガリガリ”で、足が遅いため、ボールに触ることがほとんどなく、ボールを持った子を追いかけるだけ。試合はもとより、練習に行くのも嫌がっていた。

そんな中、2年生の2月頃(3年生になる直前頃)、サッカーの練習に送って行く途中にコウタが「話したいことがある」と切り出した。

「サッカーは今年で辞めたい」

「どうして?」

「野球をやりたい」

軽い気持ちでは絶対に野球は続かないことを知っている。
さらに尋ねた。

「どうして野球やりたいの?」

「ピッチャーをやりたい」

「…」

野球をやるのはまだいいとしても、ピッチャーはあまりにも難しい。
ただ、コウタが始めて自分で立てた目標。
親が「それはダメ」と言う立場にはない。

「じゃあ、ピッチャーを目標にがんばるんだね。小学校の間は絶対に辞めちゃあ駄目だよ」

男同士の約束をし、小学3年生から野球を始めた。コウタの運動センスを考えると、中学で野球をするのは難しい。そのため「小学校の間は」という条件にした。

それからというもの、学校から帰ればグローブを持って裏の広場へ行き、誰かを見つけては野球に興じていた。わたしも休みの日には朝から晩まで野球に付き合わされることもしょっちゅうあった。

その甲斐あってか、10m程度しか投げられなかったボールを、今では40m以上投げられるようになり、上級生の試合にもちょくちょく出してもらえるようになった。

9月5日に5年生以下の大会が控えている。5年生チームでは、コウタはキャプテンで四番だ。駄目なりに一生懸命取り組んでいる姿勢を評価してくれてのキャプテンだと思うので、しっかり見てくれていた監督やコーチには感謝したい。打順については、まあ四番と言っても打てる子が3人しかいないため一番から三番に集めた上での四番なので、正確には四番目のバッターなのだが、本人は随分気に入っているようだ。なんたって試合をすれば相手ベンチが「バッチ四ば~ん」と大声で叫び、外野手は5歩程下がるわけだから…

12時30分頃。

車4台が連なる我々一行は、昼食をとるため浜北付近を走行中で、トイレ休憩のため通り沿いのコンビニに入った。ずらずらと4台が駐車場に停車した時、嫁さんの携帯が鳴った。

「この電話だれだろ?」

しばらく番号をじっと見ていたのだが、“ハッ”と思ったのか「コウタ?」と口にし、慌てて通話ボタンを押した。

以前コウタは頭を怪我したことがある。怪我自体は大したことはなかったのだが、嫁さんが旅行に行っていた際に起こった事故だったため、彼女の中で「子供を置いてどこかに行く時に限って事故がある」というようなことがトラウマとなっていたようだ。だから嫌な予感がして「コウタ?」と言葉に出たのだ。

そして、残念ながら、その予感は、“的中”する。

「えっ!?交通事故?」

そう言うと、顔色は見る見る悪くなっていった。

しかし、この電話は連絡だけで詳しいことが全くわからない。
「すぐにかけ直す」ということだったようで、嫁さんは顔を覆ったまま、「次の出て」と携帯を手渡した。

するとすぐさま携帯が鳴った。

声の主は消防署の救急隊だった。

「お子さんは背骨から腰にかけて損傷している可能性があります。よってドクターヘリを要請しました」

携帯から漏れる音で事態を察した嫁さんは、すぐさま泣き出した。

「わたしのせいだ…わたしがコウタ置いて出掛けたからだ…」
と。

一緒にいる仲間達に状況を伝え、すぐさま病院へ。
この辺で救急で運ばれるとしたら聖隷三方原病院だ。聖隷に向かう。

すると再び電話が…

「息子さんですが、静岡のこども病院に搬送するかもしれません」

(一体どんな状態なんだ…)

なぜそんな遠くに…。
交通事故の規模が想像を遥かに上回っているとしか考えられない。

頭の中が真っ白になった…

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